★★★黒部ダムもう一つの戦い『36mの攻防』 (関西電力)


★★★黒部ダムもう一つの戦い『36mの攻防』
☆一般に、アーチダムは上流側からの水圧をアーチトラスト(推力)として、ダムの基礎地盤や両アバットメント(堤体が接する両岸部分)に伝達させるもので、スレンダーな形状で大きなダムを建設することができる。複雑な形状ゆえ構造設計は難しいが、少ないコンクリート量で効率的なダム形状が可能となる。
黒部ダムの構造設計は、15回の設計変更(Solution I~ Solution XVI)など紆余曲折を経て、現在の基本構造「両翼にウイングダムを併設するドーム型アーチダム」に至っている(Solution:設計案を意味する)。
☆設計変更の過程では、1959年12月、フランスのマルパッセダム(アーチダム)の崩壊が伝えられ、世界銀行が黒部ダムの再調査を開始した。そして、崩壊事故の5か月後、“両アバットメント上部の岩盤強度に問題があり、ダム高を36m下げる”ように勧告が出された。これは、計画発電量の大幅な減少を意味するもので、事業者として受け入れがたいものであった。そこで、関西電力は構造計算と岩盤実験によって堤体の安定性を立証し、米国ワシントンの世界銀行との協議に臨んだ。その後、現地会議とパリ会議を経て、ようやく当初のダム高186mが承認された。
☆足立紀尚氏(京都大学名誉教授)によれば、「上から見ると鳥が飛んでいるような形で、始めは奇異に感じましたが、実にきれいな形です」と述懐し、当時の事業者の対応を賞賛している。関西電力の技術陣の力戦奮闘は現在もなお伝えられ、我が国の岩盤力学とダム工学の礎を築いたとも言われている。
【参考文献】巨大ダムのカリスマ 黒部ダム -くろよんプロジェクトは大規模電源開発の礎を築き、インフラツーリズムの先達でもある-
https://ieei.or.jp/2024/03/yoshikawa_20240313/
【参考サイト】https://ieei.or.jp/2024/03/yoshikawa_20240313/
投稿日時 2025-03-25 11:15:05
投稿:吉川弘道(東京都市大学名誉教授)